フランコ・ビバレリについて

フライフィッシングはもちろん、アウトドア道具やふだん着の洋服にいたるまで。

思春期からMade in U .S.A.にかぶれて育ったアングラーに、イタリア製の、しかもセミオートマティック・フライリールを使う日が来ようとは!

想像することすらできなかった、試合をきっかけに始まった人生初の”セミオートマ”、フランコ・ビバレリの話。

マニュアルからセミオートマティックへ

 先のスペイン戦への参戦をきっかけに、大きな変更を加えた釣り道具の一つが、川で使うライトライン用のフライリールだ。それまで試合用といえば、ラージアーバーのスプールと滑らなディスクドラグをそなえた米国メーカーのフライリール一辺倒だったのだが、これを機にイタリアはFranco Vivarelliフランコ・ビバレリ社製(以下ビバレリと略)のセミオートマティック・リール(以下セミオートマと略)が加わった。

 セミオートマの特徴は、ロッドハンドの片手だけでラインを巻き上げられることだ。

 マニュアルのフライリールは、一般的なシングルアクション(1対1)であれスタンリー・ボグダンのサーモンリールのようなマルチプライヤーであれ、ハンドルをつまんでスプールを回転させ、ラインを巻き上げる。リールでマスとやりとりをするときも同様だ。

 一方ビバレリのようなセミオートマは、ロッドを握ったまま、小指や薬指などでリールのレバーをロッドに引き寄せるように動かすことでスプールを回転させ、ラインを巻きとる。ラインハンドの手のひらでレバーを押してもいい。いずれも一瞬にしてラインを回収することができる。手元にあるスタンダードリール#6(現行品)は、リールから出た3mほどのラインなら、レバーを1回動かすだけですべてスプールの中に巻き取ることができる。

 セミオートマは、魚が掛かった状態のラインの回収、つまり魚とのやりとりをレバーで行なうことはできない。ファイトの際は、ラインハンドでラインをストリップし、ラインをスプールに巻き取る際にレバーを動かす。

 蛇足だが、昨今ビバレリを模して作られたセミオートマの中にはスプールにハンドルがついているものもある。これらはふつうのリールと同じように、ハンドルを使った巻き上げもできる。

 

出会い

 東京でフライフィッシング専門誌の編集者をしていた2000年頃だったと思う。T社の新製品展示会に行った時、当時役員だったSさんが見慣れぬリールを手に近づいてきた。リールについたレバーを動かしてスプールをビュンビュン回転させながら、「これいいでしょー」と嬉しそうに見せてくれた。イタリア製といわれたもののその時はまるでピンとこなかった。これがビバレリとの出会いだ。

 ふたたびビバレリを意識したのは、コンペティティブな釣りに傾倒してからのこと。

 2019年にFIPS-Mouche主催のワールド・フライフィッシング・チャンピオンシップ(以下WFFCと略)に初参戦し、タスマニアに行った。情報としてなんとなく知ってはいたものの、試合に出て「一部の選手がセミオートマを使っている」という現実を目の当たりにした。すぐさま、20年前に触れたビバレリのことを鮮明に思い出した。利点はおおむね知っていた。

 帰国後、フランコ・ビバレリの名前を”ググっ”てみた。欧州に、リール本体やサードパーティ製の部品などを商っているショップは見つけられたが、肝心のメーカーのウェブサイトが見つけられなかった(注1)。それで、なんとなく後回しになってしまっていた。

 当時、日本チームは前年2018年にWFFCイタリア大会(イタリア北部のトレンティーノで開催)を経験していたが、タスマニア戦でセミオートマやビバレリを使っている選手はシニアには一人もいなかった。

 

WFFCスペイン戦

 2022年の秋、WFFCスペイン戦に参戦した。試合前、日本チームはプラクティスのため、コック・デ・レオンで知られるスペイン北部の町Leonレオンに滞在した。そこで二日間、スペインのナショナルチームの元キャプテンであるYさんらに指導を受けた。

 スペインのナショナルチームといえば、ユーロニンフ4傑の話を持ち出すまでもなく、世界に知られた強豪であり名門チームである。 

 WFFCでの昨今の戦績はすさまじい。シニアでは、2015年ボスニア・ヘルツェゴビナ大会で優勝、翌年2016年アメリカ大会優勝、2018年にはイタリア大会で優勝(結局、今回のスペイン大会でも優勝した)。ここ10年、チーム戦で3位以内に入っていない年は2回だけだ。ほか、今年マスターズ(50歳以上)では4位、ユーロ大会では2位、ユース(14~18歳)はなんと1位である(いずれもチーム戦)。選手層の厚さといい、スペインが今後も揺るがぬ強豪であろうところを見せてくれた。

 レオンは、そんなスペインのナショナルチームへ、多くの選手を輩出している町だ。近年シニアで優勝と2位入賞を果たした選手も「彼も拠点はレオンなんだ」とYさんに聞いた。

 話を戻す。川で初めてYさんのタックルを見た時、思わず目を見張った。彼のロッドにはビバレリがセットされていたからだ。聞けば、スペインのナショナルチームでは、選手のほとんどがセミオートマを使っているという。ガイドをしてくれたMさん(マスターズのコンペティターと聞いた)のロッドにも、大口径のスプールがデザインされたセミオートマがついていた。聞きたかったことが頭の中に山積していた者には、渡りに船だった。

 Yさんのつてで、急ぎレオンのフライショップに注文を入れた。

 

ビバレリの弱点と長所

 ビバレリの弱点をあえて挙げるなら、ブレーキだろう。

 ビバレリのブレーキはスプール側にその機構があり、”コイルばね”の力によって押されたクラッチボールと、スプールシャフトを兼ねたギアとの摩擦抵抗によってブレーキとしている。ブレーキの強さを変えるには、新品時に同梱されてくるヘキサゴンキーが必要でツールなしでは調整ができない。

 クリック・アンド・ポールのリールとして代表的なハーディーのライトウェイト・シリーズなどのそれに比べブレーキの調整幅は狭く、セットした抵抗が弱すぎると逆転時にバックラッシュしやすい。

 逆転時の印象は、一般的なクリック・アンド・ポールのフライリールと同じようなものだ。ゆっくりラインを引き出せばカリカリカリカリ……、早く引けばギーッ! と音がする。音色はプラスチック的で樹脂の音だ。

 滑らかで強力なディスクドラグ付きのリールによる、なかばオートマチカリーなマスとのやりとりに慣れた人は「使いづらい」と感じるかもしれない。巻き上げのためのハンドルがない影響は大きく、大型のマスが釣れる頻度がたかい場所では最良の選択とは言いがたい。フィッシングガイドなどの職業人のみならず、日頃から50cmを越える大型のマスが相手というアングラーのなかには「不便」と感じる人もいるはずだ。

  一方で、セミオートマの利点といったら枚挙にいとまがない(だから愛されているんじゃないか!)。チームスペインの選手たちをはじめ、世界屈指のコンペティターたちがこぞって愛用するのには理由がある。

 ビバレリのスタンダードリールのハウンジングには”CARBON FIBRE”の文字がエンボス加工されている。本体、スプール、レバーに使われている素材はカーボンファイバー強化樹脂だろう。色が艶消しの黒というのもいい。光線を反射させるようなところがほとんどない。

 Yさんには、日頃のメンテナンス方法をはじめ効果的な使い方までを教わった。また、トラブルを防ぐ工夫など、練習や試合でビバレリを使ってきたコンペティターならではの”お約束”も教わった。

 

 最後に、レオン滞在のきっかけをくださったIさんはじめWFFJ関係者の皆さまにこの場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。(2022年12月)

 

(注1)2023年1月8日現在、同社のウェブサイトは稼働中です。

https://francovivarelli.com/

ビバレリの拠点はイタリア北部の都市ボローニャの町ちかくにある。
ビバレリの拠点はイタリア北部の都市ボローニャの町ちかくにある。
写真はスタンダードリール#6。スプールにハンドルはない。
写真はスタンダードリール#6。スプールにハンドルはない。
スプールプレートには頭文字のFとVが。左上に見えるのがブレーキ調整用キーの穴。
スプールプレートには頭文字のFとVが。左上に見えるのがブレーキ調整用キーの穴。
別売のスペアスプール。スタンダードリール#6のラインキャパシティは上限がWF6Fまで。
別売のスペアスプール。スタンダードリール#6のラインキャパシティは上限がWF6Fまで。
”オート”のイメージに反して、機構に渦巻きバネ(ぜんまい)はなく、おもに各種ギアとコイルバネで構成されている。
”オート”のイメージに反して、機構に渦巻きバネ(ぜんまい)はなく、おもに各種ギアとコイルバネで構成されている。

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