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Woodburning Stove

万民にフェアな鋳物の箱

 わが家の冬の暖房機器は薪ストーブです。

 例年11月くらいから焚き始めて翌年のゴールデンウィークくらいまで、1年のうちの約半年間を薪を燃やして暖をとっています。

 最初に断っておくと、設備あるいは耐久消費財として鑑みれば、薪ストーブはコストが低いわけでも、簡単でも便利でもありません。なんてったってスイッチ一つで暖かくなるわけでもなく、燃料の薪は自動的に供給されるわけでもない。自分の力で運んでこなきゃならない。それに、経験を積んだ上級者は扱いが上手。少ない量の薪でより暖かく保つことができる。

 いってみれば、自分の筋力と費やした時間に訴えてこそ相応の恵みを受けられるという、おしなべて不便でフェアな道具です(もちろん、お金さえ出せばどんな高級薪ストーブでもお金払えば業者が”設置”してくれますが)。そう、薪ストーブは、世の金満家にとってはじつに不都合な鋳物の箱。これって、最新型で最高級のフライロッド買ったからといって、デッカイ魚が釣れるようにならないフライフィッシングと同じですね。

 でも、何事も簡便になれば万人が幸せになれるかといえば……そうでもないらしい。昨今、美味しいお米を食べたいわが国のご婦人の間では、炊飯用に昔ながらの土鍋が売れているらしい。人というのは摩訶不思議な生き物ですね。

 

 ストーブの話でした。わが家で薪として使っているのは、軽くて柔らかいハンノキ、各種のヤナギ、中くらいの火力を生じるシラカンバやエゾヤマザクラ、ニレ、高カロリーを生じる堅木のカシワなど。現在は、敷地に自生しているそれらを間引きながら、薪小屋で乾燥させて薪にしています。適切に間伐すれば木立の環境もよくなって光合成が促進され、残された木もよく太る。

 ご近所の村の男衆はウチの屋根に煙突がついているのを知っています。そのせいか「ウタノさーん。家の裏のカシワと青木(常緑のマツ類のこと)伐ったんだー。薪に使うかーい?」と、不要な木を譲り受けることもたびたび。そんな理由もあって、手元にある薪用の樹種も多様です。

 焚き付け時、いちばん最初は燃え尽きやすいハンノキやマツの仲間などを燃やします。そうして、たくさんの熾(おき)ができたらカロリーのあるカシワやミズナラの薪を入れる。ナラが一級品なのはわかるけど、間引きした木を捨てるのはもったいない。樹種に神経質にならず、燃やし方のほうを工夫して日々の暖をとっています。

 まぁー、私の薪作りは、樹々の手入れと庭いじり、ついでに日頃使っていない筋肉の”筋トレ”も兼ねてます。この種の仕事は村の森林組合などに頼めばプロがやってくれる。でも、薪はインフラを運転させる源であり、そのコストは冬に暖をとるために必要な固定費みたいなもの。支出を減らして燃料を得、身体使って健康でいられるなら、 結局それがいちばんエコノミカルです。いっぱい稼いでも、ストレスと運動不足で病気になったらねぇー。元の木阿弥ってもの。

 初めはお金払ってプロに頼んで仕事を見取り、教わる。次は自分で経験して筋肉に訴えながら知恵を蓄える。そのほうが、おしなべてスマートってものではなかろうかと思います。フライキャスティングと同じですね。

 

 焚き付け用の小枝は、わが家ではカラマツの枯れ枝が定番。小ぶりの松かさ(まつぼっくり)が盛大に付いた枝は見た目にも楽しく、着火がよくて瞬発的な火力がある。ガラス越しに見える炎がとっても綺麗だし、パチパチはぜる音も耳に心地いい。キャンプの焚き火にもぴったりです。

 このカラマツ、よく晴れて強い風が吹いた日の後が枯れ枝集めの”時合”。強風の後は、枯れ枝だけがそこらじゅうにたくさん落ちているから、短時間に量を集めることができます。釣りと同じで、人間の都合や嗜好ではなく、天候や状況に合わせたほうがけっきょくムダがなく、無理もありません。虫に興味がないマスにドライフライやニンフ投げても、ねぇー。推して知るべし。

 スノーシューをはいてソリを引き、カラマツ林を歩きます。風で落ちちゃうような枯れ枝は生のそれとは違い、細いものはポキポキ手折ることができます。太いものでも両手と太腿を使えば簡単に折れる。枝を集めた後は農業用コンテナに入れ、その上に乗って足で踏みつけ、体重をかけて”かさ”を小さくしておきます。大型のソリにいっぱい集めて、ちょうどコンテナ1杯分。ラッセルしながら拾い集め、これを2杯分もやると、氷点下でもたいてい汗が出てきます。

 北海道では、一般的に敬遠されがちなトドマツなどマツの仲間をストーブの主燃料に使う人もいる。乾燥させたこれらの木は、弱火での運転や火もちの面で難があるものの、樹種の特性で油分があって火力が強い。特に空気をたくさん入れてストーブの温度を上げる際には良好だそうです。

 

 十勝の厳寒期といえば氷上ワカサギ釣りです。昨年の暮れには、パキーンと晴れた真っ青な空の下、今シーズン初のテスト釣行に行ってきたばかり。見事なまでに大型揃いでした。

 そうだ。釣ってきた新鮮なワカサギと薪ストーブの相性が抜群であることを報告しておきましょう。一夜干しをあぶって酒の肴にするのもいいし、クッキンググリドルの上でアヒージョにしてもいい。そこに熱くなった鉄板があればねぇー。朝ご飯の明太子くらい手軽に焼けちゃう。そう、熱を再利用できる点も、冬の薪ストーブ暮らしの大きな副次的恩恵であります。

 そういえば、朝鮮半島の家屋にある伝統的なオンドルは、かまどで煮炊きした際に出る煙の熱を再利用した床暖房設備です。15年くらい前、晩秋の韓国へ釣りに行った時、民宿の部屋にオンドルがあった。頭寒足熱にかなっていて下半身はいつもじんわりと暖かく、夜も快適そのものでした。わが国の設備屋さんも、職人さんに弟子入りしてオンドルやればいいのに。そう思います。

わが家の薪小屋、晩秋の姿。このほか、6立米ほどの薪をパレットの上に積み、シートを掛けて野積みにしています。
わが家の薪小屋、晩秋の姿。このほか、6立米ほどの薪をパレットの上に積み、シートを掛けて野積みにしています。
焚き付けに使うカラマツの枯れ枝。油分を含んでいて火力が強い。燃やすと綺麗な炎が上がる。わが家では、トネリコを編んだバスケットに入れて使っています。ストーブ周りが散らかることもなくとってもユースフル。
焚き付けに使うカラマツの枯れ枝。油分を含んでいて火力が強い。燃やすと綺麗な炎が上がる。わが家では、トネリコを編んだバスケットに入れて使っています。ストーブ周りが散らかることもなくとってもユースフル。
秋は黄金色になって紅葉を楽しませてくれるカラマツ林(右)は焚き付けの宝庫。風が吹いた日の後は、スノーシューをはいてせっせと拾い集めます。乾燥していて軽く、よく燃えるばかりか、なんてったってタダ。カラマツは、日本に自生するマツ類では唯一落葉する種。
秋は黄金色になって紅葉を楽しませてくれるカラマツ林(右)は焚き付けの宝庫。風が吹いた日の後は、スノーシューをはいてせっせと拾い集めます。乾燥していて軽く、よく燃えるばかりか、なんてったってタダ。カラマツは、日本に自生するマツ類では唯一落葉する種。
わが家の1台はVERMONT CASTINGS社の中型機種。触媒式ゆえか扱いは簡便ではありませんが、煙に含まれるクレオソートなどを浄化してくれるエコロジカルなストーブだそうです。あ、蛇足ですが、『〜だそうだ」とか「〜のようだ」「〜みたいだ」と書くのは無責任で好きじゃありませんが、私は薪ストーブの専門家じゃない。素人ゆえ、厚顔無知。だからこんなポストを気楽に書けるというわけ。プロの場合、こうはいかない。これは生活者からの報告なのであります。情報に精度がなくても悪しからず。
わが家の1台はVERMONT CASTINGS社の中型機種。触媒式ゆえか扱いは簡便ではありませんが、煙に含まれるクレオソートなどを浄化してくれるエコロジカルなストーブだそうです。あ、蛇足ですが、『〜だそうだ」とか「〜のようだ」「〜みたいだ」と書くのは無責任で好きじゃありませんが、私は薪ストーブの専門家じゃない。素人ゆえ、厚顔無知。だからこんなポストを気楽に書けるというわけ。プロの場合、こうはいかない。これは生活者からの報告なのであります。情報に精度がなくても悪しからず。
薪ストーブに必要なアクセサリーの筆頭といえばサーモメーター。スマートな運転をするためにはこのツールが欠かせない。わが家の機種の場合、ストーブ内の温度が安定して薪全体に火がまわりメーターが230℃を越えたら、ダンパーを閉めて水平燃焼モードに切り換える。以降の運転は触媒が一つの要だからキャタリティックブロック周りは、シーズン中も定期的な清掃が欠かせない。メンテナンスが万事面倒な人には向いていない薪ストーブなのかも。わが家のそれはフライロッド・メーカーのOrivi社と同じVermont州生まれ。
薪ストーブに必要なアクセサリーの筆頭といえばサーモメーター。スマートな運転をするためにはこのツールが欠かせない。わが家の機種の場合、ストーブ内の温度が安定して薪全体に火がまわりメーターが230℃を越えたら、ダンパーを閉めて水平燃焼モードに切り換える。以降の運転は触媒が一つの要だからキャタリティックブロック周りは、シーズン中も定期的な清掃が欠かせない。メンテナンスが万事面倒な人には向いていない薪ストーブなのかも。わが家のそれはフライロッド・メーカーのOrivi社と同じVermont州生まれ。
アニュアルメンテナンス時は、ストーブが冷めて灰が燃え尽きたのを確認してから内部をここまで分解します。事前に、周りが灰や煤で汚れてもよい準備を。分解には、ボックスレンチやプライヤー、掃除機などの道具が必要。各部を点検し、灰を清掃します。元どおりに戻したら、作業はおしまい。図版はユーザーマニュアル(英語版)より。
アニュアルメンテナンス時は、ストーブが冷めて灰が燃え尽きたのを確認してから内部をここまで分解します。事前に、周りが灰や煤で汚れてもよい準備を。分解には、ボックスレンチやプライヤー、掃除機などの道具が必要。各部を点検し、灰を清掃します。元どおりに戻したら、作業はおしまい。図版はユーザーマニュアル(英語版)より。
ご存じ、焚き付け作りの大定番ツール、ニュージーランド生まれのKINDLING CRACKER、通称”キンクラ”。これは、以前ポロシリでガイドやってたムツオ君からのプレゼント。適当な丸太にコーチスクリューで留めて日々愛用中です。
ご存じ、焚き付け作りの大定番ツール、ニュージーランド生まれのKINDLING CRACKER、通称”キンクラ”。これは、以前ポロシリでガイドやってたムツオ君からのプレゼント。適当な丸太にコーチスクリューで留めて日々愛用中です。
キンクラを使えば、あっという間に農業用コンテナ1杯分の焚き付けを作ることができます。単調な作業を生理的に楽しくさせてくれる稀なツールです。キャンプにもいいかも。
キンクラを使えば、あっという間に農業用コンテナ1杯分の焚き付けを作ることができます。単調な作業を生理的に楽しくさせてくれる稀なツールです。キャンプにもいいかも。
ストーブ運転真っ最中の冬のある日。内部のアッパーファイヤーバックを外し、キャタリティックブロックを取り出して清掃しました。変形や破損が多いと聞く消耗品ですが、現時点では特に異常もないようでひと安心。
ストーブ運転真っ最中の冬のある日。内部のアッパーファイヤーバックを外し、キャタリティックブロックを取り出して清掃しました。変形や破損が多いと聞く消耗品ですが、現時点では特に異常もないようでひと安心。
ほかの暖房機器と併用するのなら、お隣のフミ兄んちのストーブのように、シンプルな機構のクリーンバーン方式のストーブがいいのかもしれない。なんてったって楽チン。綺麗な炎が揺れるのを眺めていたいのなら、絶対的にこっちだ。触媒式のわが家のストーブは、1日の大半を薪ストーブのある部屋で過ごしているような、長時間薪を焚き続ける人向けなのかも。メーカー公表値では、約25%の薪を節約できるとか。いずれのストーブにしても、ひと冬に使う薪の量は相当なものだから、燃費はシリアスな問題です。
ほかの暖房機器と併用するのなら、お隣のフミ兄んちのストーブのように、シンプルな機構のクリーンバーン方式のストーブがいいのかもしれない。なんてったって楽チン。綺麗な炎が揺れるのを眺めていたいのなら、絶対的にこっちだ。触媒式のわが家のストーブは、1日の大半を薪ストーブのある部屋で過ごしているような、長時間薪を焚き続ける人向けなのかも。メーカー公表値では、約25%の薪を節約できるとか。いずれのストーブにしても、ひと冬に使う薪の量は相当なものだから、燃費はシリアスな問題です。
タラの代わりにワカサギを入れ、アヒージョに。伝統的にカスエラで煮るのもいいし、鋳物のスキレットでグツグツやるのもいい。香ばしいニンニクの香りが食欲をそそります。
タラの代わりにワカサギを入れ、アヒージョに。伝統的にカスエラで煮るのもいいし、鋳物のスキレットでグツグツやるのもいい。香ばしいニンニクの香りが食欲をそそります。

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コメント: 2
  • #1

    なべ (日曜日, 25 2月 2018 04:56)

    薪ストーブ、我が家も導入予定。勉強になりました!また色々教えてくださいませ。

  • #2

    管理人 (日曜日, 25 2月 2018 10:34)

    なべさん、いつもコメントありがとうございます。そうなんですねー。それは素晴らしい!
    素人丸出しの記事ですから導入時は自分も毎日薪焚いてるような専門家に聞いてくださいね。